出入国在留管理庁は2026年10月1日付で「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン」を策定した。8月4日に公表したガイドライン案の策定版で、入管庁のページには令和9年(2027年)4月1日から運用を開始すると記載されている。令和6年(2024年)の入管法改正で追加された取消事由(入管法第22条の4第1項第8号・第9号)の解釈と、取消しか「職権変更」かの判断の考え方を示したものである。
ガイドラインの位置づけ
- 策定日:令和8年(2026年)10月1日。運用開始:令和9年(2027年)4月1日
- 取消事由に該当しても、原則は取消しでなく職権変更:引き続き本邦に在留することが適当でないと認める場合を除き、法務大臣が職権で「永住者」以外の在留資格への変更を許可する(入管法第22条の6)。ほとんどの場合は「定住者」への変更を想定している
- 職権変更後:永住許可の要件を満たせば、再度永住許可を受けることも可能とされている
- 目的:改正法の附帯決議(既に定住している永住者の利益を不当に侵害しないよう、個別事情を厳正に判断し、具体的事例のガイドラインを作成・周知すること)を踏まえ、外国人や関係者の予見可能性と処分の公平性を確保する
取消事由の3類型と、示された考え方
① 入管法上の義務を遵守しないこと(第8号)
- 対象となる義務は、入管法第9章(罰則)で担保されているもので、退去強制事由に当たらないもの。例は、在留カードの携帯・提示義務(第23条)や、在留カードの偽変造等をしない義務(第73条の3)
- 病気や災害などで履行できなかった「正当な理由」がある場合は該当しない。一方、過失で義務に違反した場合でも取消事由には該当する
- 在留カードの有効期間更新・再交付申請の失念や、不注意による不携帯などは取消事由には該当するが、その一度の不履行だけをもって取り消すことは想定していないと記載されている
- 偽変造カードの行使や、不法入国者等の蔵匿等は、既遂の場合は退去強制事由に当たるため、未遂の場合が取消事由に該当する
② 故意に公租公課の支払をしないこと(第8号)
- 「公租」は租税全般(所得税・住民税・法人税・固定資産税等)、「公課」は租税以外の公的負担金(公的医療保険の保険料・公的年金の保険料等)。手数料・利用料や、罰金・過料(交通違反の罰金・反則金等)は含まれない
- 「故意に」とは、支払義務を認識しながらあえて支払わないことで、収入・資産の状況、滞納の回数・額・期間、経緯、その後の状況などを総合し、支払意思がないことが明白と認められる場合が該当すると考えられている。実際の滞納がなくても、申告が必要と明白なのに申告しない場合を含む
- 永住者が法人の経営・管理に実質的に関与する立場で、法人の公租公課の支払義務を認識しながらあえて支払わない場合も該当し得る
- 該当すると想定される例:長期の滞納で届出なく転居し所在不明/繰り返しの催告・滞納処分でも納付する意思を示さない/分納・猶予の期限の不履行を繰り返す/脱税等で有罪判決を受けた/財産隠蔽等の不正行為
- 該当しないと想定される例:病気・災害・失業などのやむを得ない事情/催告等に応じて支払う意思を示し、分納・猶予を受けている/生活保護に準じた措置を受けている/給与から控除されているのに所属企業が支払っていない場合
- 滞納額等は考慮されるが、一律の基準を定めて判断するものではない。永住許可後・改正法施行前の故意の不払いが施行後に判明した場合も該当するが、施行前の一時点の事情だけで直ちに取り消すものではないとされている
③ 特定の刑罰法令違反により拘禁刑に処せられたこと(第9号)
- 対象は、入管法第22条の4第1項第9号に掲げられた罪に限られ、いずれも故意犯。刑法の住居侵入・文書偽造・賭博・殺人・傷害・逮捕監禁・窃盗・強盗・詐欺・恐喝・盗品等に関する罪、危険運転致死傷など
- 刑期の長短を問わず、執行猶予が付いた場合も含む
取消しとなるのはどのような場合か
取消事由に該当した場合は、経緯やその後の在留状況、今後の在留意向を総合考慮し、「引き続き本邦に在留することが適当でない」と認めるときに取消し、そうでなければ職権変更とされる。ガイドラインに示された考え方は次のとおり。
- 義務違反(第8号):今後も義務を履行する意思がないことが明らかな場合や、態様が社会通念上看過しがたい場合。繰り返しの指導にもかかわらず在留カードの携帯・提示や更新をしない場合、偽造在留カードの行使や不法入国者等の逃走の幇助を試みた場合など
- 公租公課の不払い(第8号):今後も支払う意思がないことが明らかな場合や、滞納額等が社会通念上看過しがたい場合。単に資力がないだけでなく、支払わない意思が言動等で明らかな場合、過去に複数の滞納を繰り返し今後も見込めない場合、脱税等で有罪となった場合など
- 刑罰法令違反(第9号):犯罪傾向が進んでいると認められる場合。例として、永住許可後(改正法施行前を含む)に拘禁刑の前科があり、さらに第9号の罪で拘禁刑に処せられた場合。初犯は執行猶予が付いても、職権変更とすることが想定される
- 取消相当と判断した場合でも、特に家族関係や人道上の配慮の必要性があるときは、取り消さず職権変更とすることもあり得る
国・自治体職員による通報
国や地方公共団体の職員は、職務の遂行中に取消事由に該当すると思料する外国人を知ったとき、入管官署に通報することができる(入管法第62条の2)。通報は義務ではなく、守秘義務を解除する根拠となる規定とされている。通報があっても直ちに取消事由に該当すると判断するものではなく、入管法に基づく調査と当該外国人からの意見聴取を経て判断される。公租公課については、催告や滞納処分の過程で把握した事実から、支払意思がないことが明白と認められる可能性があると考えられた場合に通報できるとされている。
自由民主党の提言との関係
自民党の外国人政策本部は、2026年1月20日の提言で、永住者の在留資格取消しに関するガイドラインを適切に策定し、運用開始に向けた必要な準備を行うべきとした。同本部の第2次提言(2026年6月9日)は、改正入管法が令和9年4月に施行されることを踏まえ、運用基準のガイドラインを策定中であると記したうえで、改正入管法の施行状況を踏まえた取消事由の範囲の拡大を含め、更なる検討を進めるべきとしている。
これらは党の提言であり、取消事由の範囲拡大が政府で決定されたわけではない。今回の入管庁のガイドラインは、現行の入管法第22条の4第1項第8号・第9号の解釈を示したもので、範囲の拡大は含まない。なお、自民党のウェブサイトは2026年10月29日付で、10月1日に改定された永住許可に関するガイドラインを党の提言に基づくものと説明している(この記事は取消しガイドラインには言及していない)。
実務上のポイント(行政書士の見解を含む)
- 運用開始は2027年4月1日である。ガイドラインは、永住者の在留資格を「取り消す」場合だけでなく、取消しの前に職権変更が検討される仕組みを明示している。取消事由に当たり得る事実があっても、直ちに永住資格を失うとは限らない
- 日常の備えとして、住民税・国民健康保険(または健康保険)・国民年金(または厚生年金)の納付状況の確認、在留カードの有効期間・携帯・住所変更等の届出の確認が重要である。納付が困難な事情があるときは、納付相談や分納・猶予の手続を早めに行うことが、ガイドラインの「該当しない例」に沿う
- 法人の経営・管理に関与している永住者は、法人の納税・社会保険の納付状況も確認の対象になり得る
- 個別の事案が取消事由に当たるか、取消しか職権変更かは、個々の事情で判断される。ご不安がある場合は、事実関係を整理したうえで専門家にご相談ください。詳しくは在留資格申請・入管手続きのご案内をご覧ください
情報源
- 出入国在留管理庁「永住者の在留資格の取消しに関するガイドラインについて」(令和8年10月):https://www.moj.go.jp/isa/deportation/resources/nyukan_nyukan85_00002.html
- 同「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン」(令和8年10月1日策定。PDF):https://www.moj.go.jp/isa/content/001416944.pdf
- 自由民主党外国人政策本部「外国人政策本部提言」(令和8年1月20日。PDF):https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E6%94%BF%E7%AD%96%E6%9C%AC%E9%83%A8%20%E6%8F%90%E8%A8%80.pdf
- 同「外国人政策本部第2次提言」(令和8年6月9日。PDF):https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/213449_1.pdf
- 自由民主党「永住許可を適正化 不公平なくす外国人政策」(2026年10月29日):https://www.jimin.jp/news/information/214498.html